精密な鉄道模型でマニアを魅了する「天賞堂」。
鉄道ファンには天賞堂といえば鉄道模型となりますが、貴金属宝飾、輸入時計、記念品製造販売を業務とする会社です。
銀座4丁目、晴海通りと銀座れんが通りの一角に天使がいるビルがあります。
ショーウインドには宝飾や輸入時計とともにHOゲージの精密な機関車の模型が並べられていました。
ここが天賞堂の本店です。現在、ビルは建替え中のためお店は別のところで営業されています。
天賞堂は銀座の老舗のひとつで、創業は1879年(明治12年)、同じ銀座の別の場所で創業しました。
かつてテレビのスポンサーコールに「東京銀座資生堂」というものがありましたが、こちらは「東京銀座天賞堂」です。
ちなみに資生堂も1872年(明治5年)に銀座で創業しています。当時、銀座は煉瓦造りの商店街を明治政府が資金を投じて建設しました。
完成当初は不人気でなかなかテナントが埋まらなかったそうです。
先見の明があったのか、のちに名店や老舗とよばれるお店が次々出店し、明治の中ごろにはモダンな最先端の街になっていきました。
最初は印章業「天賞堂印房」として創業。その後は輸入時計、貴金属宝飾、レコードと取扱い品目を増やし、徐々に商売を大きくしていきました。
1882年(明治15年)にはわが国初の貴金属の通信販売を開始、「商道先駆」の精神のもと新しい試みにも挑戦しています。
また印章業では明治天皇の御璽を賜る栄誉をうけ、その技術の確かさから、その後宮内庁より明治天皇や大正天皇の献上品を承ることになります。
現在、天賞堂の取り扱いは、輸入時計、貴金属宝飾、記念品、鉄道模型の製造販売になっています。ランナップを眺めていると鉄道模型だけが異色のような気がします。
天賞堂が鉄道模型の製造販売を始めたのは戦後の1949年(昭和24年)のことです。終戦直後の1946年(昭和21年)、天賞堂は現在の銀座4丁目に移転しました。
当時の社屋の2階が空いており、社長がそこで何を売るかを検討していた際、国鉄の車両デザインをしていた友人より、「これからはホビーの時代。
模型を置いてはどうか」とのアドバイスをうけたのがきっかけとのこと。
社長はクオリティにこだわった模型販売を決断、品質の保持のため自社工場まで設置しました。
また、銀座店の2階にHOゲージによる本格的鉄道レイアウト「オメガ・セントラル」を設置しました。「オメガ・セントラル」以後改修を行い、第5次「オメガ・セントラル」まで作られています。
1949年当時、まだまだわが国では高級鉄道模型の需要は限られていました。
そこでアメリカへの輸出を積極的に展開、緻密な造形が評価され「模型のロールスロイス」とも称されたそうです。
その後、高度経済成長や変動相場制移行など、経済環境の変化により輸出重視から国内需要へと軸足をうつしたことにより輸出事業は終了しました。
天賞堂の鉄道模型は16番ゲージを中心に展開しています。
わが国では16番ゲージとHOゲージが混同されている面がありますが、正確には別物です。ただ、どちらも基本的に線路幅が16.5㎜のレール使用する点は同じです。
しかし、縮尺がことなっています。日本国内の在来線車両は80分の1の縮尺で造られています。HOゲージの規格は87分の1の縮尺ですからこの点でことなっています。
日本型でも新幹線車両だけは87分の1になっています。鉄道模型の縮尺やゲージについては掘り下げるときりがないので置いておきますが、今回の記事では16番ゲージで記載させていただきます。
天賞堂の16番ゲージの模型は、圧倒的なディテールへの精巧さにつきるでしょう。
特に真鍮製機関車と言えば天賞堂といわれるほどその精密さは他の追随をゆるしません。
真鍮で設えられた機関車は塗装までこだわり、走らせれば、現車の重量感が伝わってきます。
その技術は、鉄道博物館や旧鉄道科学館も認めるところで、日本中の博物館の展示品として数多く納入されています。
真鍮製機関車は天賞堂ならではの職人技を惜しみなく投入した商品です。例えば交流電気機関車の屋根上の機器や配線など、ひとつひとつカラーリングにまでこだわり、キッチリと造りこんであります。
そのため、価格はどうしても高価になり、気軽に買える商品ではありません。そこで、ダイキャスト製の機関車も発売されています。
さらに買いやすい価格帯を目指して、近年はプラ製の商品も投入されています。
しかし、ダイキャスト製やプラ製といってもそこは天賞堂です。
金型に惜しみなく技術を注ぎ込み、真鍮製に劣ることのないディテールを再現しています。足りないのは真鍮ならでは重厚感くらいではないでしょうか。
天賞堂の特徴に一度製造した車両を売り切った場合、売り切れにして追加生産をしないというものもあります。
例えば、同じ機関車を再び生産することはありますが、まったく同じものを作らないというこだわりです。
それは、どこか新しい工夫をいれて進化させていくということです。こうして常に代謝を繰り返しさらなる高みを目指しています。
プラ製やダイキャスト製が発売されても真鍮製の機関車は憧れの商品でしょう。
その精密さと重厚感は他の製品には代えがたい魅力があります。
台車周りや床下機器、車体のカラーリング、屋根上の機器群までどれをとってももはや芸術作品の域に達しているといえるでしょう。
蒸気機関車なら動輪、シリンダーの動き、蒸気機関車ならではのメカニズムがまるで現車のように動きます。ただ、蒸気機関がモーターに置き換わっているだけです。
これらの車両は、走行に供する以外にも展示ケースに入れ眺めるだけでもその魅力が十二分に伝わってきます。
天賞堂の真鍮製模型は高価な一点ものに近い商品。マニアにとって所有するだけ満足感が得られる稀有な商品ではないでしょうか。
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